「いらっしゃい。今日いいレバが入ってるわよ…」「あっそう。それじゃあ、いつものタレで。生姜醤油にニンニク少々、ゴマダレ、ネギ多めで…」六本木交差点暗闇坂の40年も続いている赤提灯ヤキトン屋である。 |
しかし、ご存じのとおり、お上の「牛レバ刺し禁止」のお達しで、呑兵衛のささやかな楽しみもかなわぬものとなってしまった。きっかけは昨年の焼き肉チェーン店での「ユッケ」のO−157(腸管出血性大腸菌)による集団中毒が発端であるが、その後の検査によって牛レバーにもO−157が検出され、この度の禁止となったのである。 |
我が日本民族には、刺身、寿司、牡蠣など貝類も生で食べる伝統的素晴らしい食文化がある。これは日本人が持つ鋭敏な食の選別能力によるもので、全てが自己責任で行ってきたわけである。しかし、我が日本人は生では何でもよいわけではなく、豚肉には寄生虫、鶏肉には「カンピロバスター」がいて、危険であることも経験則で理解しているのである。諸外国でも、韓国のユッケは勿論、イタリアの「カルパッチョ」、フランスの「タルタルステーキ」、ドイツでは何と豚肉のひき肉の生の「メット」もあり、堂々と食されているのである。 |
パリのレストランでは、冬場になると氷を一杯に詰めた屋台の上に、牡蠣やムール貝、ハマグリなどの貝類が生で並べられ、薄暗い照明の中でエカイユ(ECAILLE=牡蠣剥職人)がレストランの注文で、せっせと殻を剥いで豪華に盛り付けている。ここでも勿論、基本は自己責任であって、レモンをしっかりたらしたり、白ワインやシャンペンでしっかり防御しているのである。 |
たまに当たるから“てっぽう”と言われる美味しいフグ料理も、死者が出たからと言って、その店は営業停止にはなるが、フグの全面禁止にはなっていない。事ほど左様に、どの国においても須らく自己責任。 |
拝啓 小宮山厚生労働大臣様!牛レバ刺し禁止は政府の過剰反応ではありませんか。庶民のささやかな楽しみを奪わないで…。 |
レバ刺しも 今日で終わりか 梅雨の夜 |
酔宵子 |