梅雨も明け、夏の暑い日差しが銀座通りに突き刺さる昼下がり。新装開店したユニクロ銀座店、その向かいの松坂屋には、平日にもかかわらず、人人人…で更に熱気を盛り上げている。 |
お目当て、〔ビヤホールライオン〕はその隣にある。日本麦酒株式会社本社一階に建設されたのは明治三二年八月四日。昭和九年に現在の地に移転したのであるが、八月四日は今でも『ビヤホールの日』なのである。 |
店内に入るとゴシック風の重厚な高い天井と壁に音が響き渡っている。正面にビール造りの大型モザイク壁画があり、ステンドグラスの窓から、真夏の太陽がアンティークな煤けた壁に差し込んでいる。東京空襲にも耐え、東日本大震災にもびくともしなかった逞しさに健気さも感じさせる。 |
昼下がりにもかかわらず、初老の紳士達や外人観光客が美味しそうにビールを楽しんでいる。ここではジョッキではなく、液体と泡の黄金分割が見事なグラスで飲むことにしている。きめ細かい泡の冷え冷えビールのグラスをフットワーク良く運んでくれる。「グイ、グイ、グイーィ…。俺はこの時のために今日まで生きてきたのか」と思う程の至福の瞬間である。銀座ライオンに通ってもう四〇年。ここでの昼間のビールは罪の意識を全く感じさせないのである。 |
東京が銀座ライオンとすると大阪は梅田新道交差点の〔アサヒビヤハウス(現アサヒスーパードライ梅田)〕であろう。戦後は進駐軍に接収されるほどの本格的ビヤホールで、夜毎専属楽団と一緒に「アイン・ツバイ・ドライ・ズッファー…乾杯!」。ここは工場直送の生ビールを、最高の状態で飲ませるため細心の注意を払っている。特に、ビールの泡の大敵である脂分除去のため、グラス洗浄へのこだわりは生半可ではない。通常、グラス洗浄シンクは三槽あり、一槽目は洗剤で洗い二槽目で濯ぎ、三槽目で仕上げが通常であるが、ここでは三槽目は「おい! その水飲んでみろ!」と教育しているのである。 |
それでは、八月四日、美味しい泡の生ビールをビヤホールで。プロージット! 乾杯! |
音響く モザイク壁画の ビアホール |
酔宵子 |