TMMP 今宵の雑学は酒の肴「春宵酔刻」 文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)

「月刊たる」収録ページ | 第34章 臼杵の河豚肝

この欄は,上記エッセイのテキスト部分です.テスト的な処置で,他の章にはこのページはありません.
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臼杵の河豚肝
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The liver of globefish From Usuki
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木枯らしが吹きはじめ、コートの襟を立てる頃になると、鍋料理と熱燗が恋しくなる。鴨鍋もあんこう鍋も捨てがたいが、やはり河豚に勝るものはあるまい。大皿に薄く盛られた“河豚刺し”を、ひれ酒を呑みながらポン酢に浸けて食べる味わいは至福の時である。ただ、都心で食べる“河豚刺し”は、たとえ三、四人前でも、大皿模様が浮出る程、巧妙に薄く皿に盛られていて、一箸で大皿半分程、掬い上げてしまいかねない。
河豚と言えば下関が有名だが、豊後水道で獲れる臼杵の河豚は知る人ぞ知る感動の河豚料理。臼杵は石仏で有名な大分県国東半島にあり、キリシタン大名・大友宗麟の領地で海の幸と山の幸に恵まれ、古い武家屋敷とお寺に囲まれた風光明媚な町である。関サバ、関アジでも有名な豊後水道には、河豚の大好きな鮑やサザエが豊富で、黒潮の急激な海流が身をしまったものにしてくれる。
河豚刺しは繊維質が豊富で、身に歯ごたえがあり過ぎるため透けるほど薄く切るが、臼杵の河豚刺しは弾力ある歯ごたえをしっかり楽しむため、厚く切るのが特徴である。これを特性ポン酢に、なんと…小皿一杯の“肝”を贅沢に入れてほぐし溶かし、そこに臼杵産のカボスをたっぷり搾る。おもむろに箸で河豚刺しを豪快に掴み取り、大胆にもガバーッと“肝いり特性ポン酢タレ”につけて口一杯に頬張るのである。
「禁断の味」である“河豚の肝”は、海底付近の毒を含んだ細菌を食べる貝類などを河豚が食べ、肝臓に取り込むことにより、本来無毒な河豚が有毒になるとの説がある。それならばと長崎大学の研究グループが海底から隔離した閉鎖生簀を使い、食物連鎖を断った状態で約5000匹のトラフグを養殖したそうだ。結果、毒を持った河豚は1匹もいなかったとの研究成果が在るそうだ。果たして実現性は、そしてその味は…。
河豚料理にはやはり“ひれ酒”といきたいが、臼杵は阿蘇の伏流水を使った麦焼酎も捨てがたい。今宵は麦焼酎のお湯割りに臼杵のカボスをたっぷりと搾って……。
肝入りの タレで河豚刺し 美味求心
酔宵子