TMMP 今宵の雑学は酒の肴「春宵酔刻」 文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)

「月刊たる」収録ページ | 第21章 紅葉 紫葉漬 三千院 …

この欄は,上記エッセイのテキスト部分です.テスト的な処置で,他の章にはこのページはありません.
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紅葉 紫葉漬 三千院 …
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Momiji, Shibaduke, Sanzenin...
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十一月の京都・大原は澄み渡る秋晴れでも、やはり昼間とは言えやや肌寒さを感じる。大阪での仕事も終え、ふと思い立って、宿泊先であるリーガロイヤルホテルから京阪電車に乗り京都三条でバスに乗り替え、紅葉見ごろの三千院へ。
「京都 大原 三千院、恋に疲れた女がひとり…」デューク・エイセスが歌った『女ひとり』を思い出すが、この作詞が彼の永六輔で、2番では「京都 栂尾とがのお 高山寺こうざんじ…」、3番では「京都 嵐山らんざん 大覚寺だいかくじ…」となっていて、語呂といい、ビジュアル溢れる表現といい、本当に洒落たもんであると、改めて感心する。
大原の里は、比叡山の北西山麓で、京都から福井への小浜街道筋にある。バスは大原盆地に向かって狭い道をくねくねと登って行き、終点の大原で下車。三千院に向かって続く呂川沿いの坂道の頭上には、覆わんばかりのモミジや切れ込みの深い可愛い小さい葉っぱのカエデが目いっぱいに紅葉している。
美味しそうな紫葉漬屋しばづけやが並び可愛い大原女が差し出す試食を「帰りにゆっくり…」と我慢して、恨めしそうに眺めながらゆっくり上ること15分。いよいよ三千院の山門である。三千院は、大原の里にある天台宗の門跡寺院で、最澄が比叡山東塔に建てた円融坊が起源。ここは山間の盆地にあるため、気温の寒暖の差が激しく、紅葉の色鮮やかさはことのほか格別。しんと静まった境内には、杉木立と敷き詰めたスギゴケに散り落ちた赤や橙の色模様。すっかり幽玄の境地を堪能して、呂川沿いの坂道を下り、お目当ての紫葉漬屋へ。
『紫葉漬』は、京都の3大漬物『千枚漬』『すぐき漬』の一つであるが、茄子、胡瓜、茗荷みょうがなどを、大原の里の名産である紫蘇の赤い葉とともに塩漬けしたものから由来している。大原のあたりは水質もよく、盆地の地勢や気象条件などよい紫蘇が育つ土地柄なのである。
瞬時「ポケーッ」と、昨日今日の煩わしいことを忘れた心地よい昼下がり。赤い緋毛氈の縁台に座って、呂川の紅葉のトンネルを行き交う人を眺めながら、紫葉漬をアテにビールの美味しいこと。
「モミジー、シバズケ、サンゼンイン・・・サケーニオボレタオトーコガ…」晩秋の心地よい風が時折吹いてきて、燃えるようなモミジやカエデを呂川のやや勢いのある流れの川面に運び、踊るように跳ねるように、流されて行く。
紅葉舞う 呂川せせらぎ 三千院
酔宵子