文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)
第三十一回 立ち上がれ! 日本酒よ
久々に訪れた香港は、空港も一新、町並みもきれいに整備されたが、町の様子は相変わらずの活気。広東、潮州、北京に四川と様々な料理店が軒を並べ、全情投入! サービス産業の極致を尽くして我々を、楽しませてくれる。
「お客さん、この海老、採りたてあるね。酔っ払い海老するよ。美味しいよ!」
透明なガラスボールの中には水槽から採ってきた海老が十匹ほど、勢いよく飛び跳ねている。「ドブドブドブ・・・」アルコール度数五十度の白酒を入れると、はじめは元気よく飛び跳ねているが、更に酒を注ぐと、酔っ払ってしまうのか、ボールにふたをして良く振っても、ぐったりとして動かなくなる。「全情投入」と大きく書かれた丸いバッジを胸につけたシェフがボールの中の海老に、ライターで火をつけると、海老はその熱さに一瞬目を覚まし、七転八倒、しばらくしてぐったりとなってしまう。
「熱ッチィチィー・・・」
まだ熱さの残る海老の殻を指先で剥いて、赤唐辛子入りのたれに付けて食べるのである。ウーロン茶のフィンガーボールで指先を洗い、ちょっと温めの古酒老酒を口に運べば、そのマリアージュたるや・・・。
調和絶品、至福全入。
酒リストには勿論ワインも取り揃えているが“郷に入れば郷に従う”やはり、中国四千年の歴史。中国料理には中国酒である。
閑話休題。
ワイン&スピリッツの一大イベント、VINEXPO Asia - Pacific 2006 が五月二十二日から香港で華やかに開催された。フランス、イタリアは勿論、チリ、アルゼンチンなど世界各国が出展。地元中国も進歩著しいワインをはじめ、中国料理には欠かせない白酒(蒸溜酒の総称)、黄酒(醸造酒の総称)も洒落たディスプレイで注目を浴びていた。しかし実に残念なことに、日本からの出展は日本のワインメーカー一社のみで、日本酒メーカーは皆無。ヘルシーでクールと世界に広く評価されている寿司をはじめとした日本食には、何といっても、洗練繊細な日本酒でなきゃあ・・・。
ワインでも紹興酒でも日本酒でも、酒の命は食とのマリアージュ。ましてや、すべて同じ醸造酒の仲間ではありませんか?
我が愛する日本酒よ! 今こそ本場ボルドーのVINEXPOに参加し、「日本酒クール!」を世界に示して欲しいものです。
立ち上がれ日本酒よ!