文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)
第二十四回 定期身体検査
「ずいぶん血圧が高いですね」「えーっ! 今、慌てて駈けてきて、上がっちゃったんでしょう。もう一度お願いします」
元来、徹底した病院嫌いで、あの独特な臭い、雰囲気、あの看護婦さんの白衣を見た途端、付き合いよく何等かの病気になってしまうようだ。
戦後、進駐軍の脱脂粉乳とコッペパンで育ったとはいえ、小学校では健康優良児、一度も大病を経験していない我が身も、五十を目前にして、一度、癌、糖尿、腸、肝臓含め徹底的な精密検査をしたのが十年程前である。
「一寸、ガンマGTPが高すぎますね。それに中性脂肪も高いし・・・・。それより、私は何でも無いと思うんですが、肺に影がありますね。近親者に癌はいましたか」と、初老の医院長がレントゲン写真を示しながら事務的に説明する。
父親は菜食者に近いにもかかわらず大腸癌で十年前に亡くなり、そうか、とうとう我が身は肺に癌かと、愕然、目の前は真っ青・・・・。
「CTスキャン、胃カメラなど、もう一度精密検査をしてください。えーと、いまスケジュールをチェックしますが・・・・一週間後です」
再度の精密検査までの一週間、そしてその結果の出る一週間の都合二週間の不安と焦燥は、本来病気など何も無いのに、本物の癌に陥ってしまうようだ。
身内には勿論、友人、ビジネス関係の人たちにも一切言わず、一人最悪を覚悟し、同じように連日連夜いつものように呑んで、騒いでいよいよ検査結果日。
「肺の影は癌では無いと思うんですが、でも、レントゲン解析医が今日いないので、一週間後にまた来てください」
「ウーン・・・・先生、これはきつい。未だですか。これは嬲り殺し。本当に効きます・・・・」
“病は気から”これじゃあ、全くの健康体が、まともな病気になってしまう。
やっとの最終結果では癌の兆候無し。肝臓値ガンマGTP、中性脂肪はかなりの問題以外、取りあえず全て健康。
それから十年。一切の健康診断を拒否し、
「健康は快食、快便がバロメータ。あの、飲兵衛、堀部安兵衛はガンマGTPがどの位かなどと言っていたか!!」と嘯いて、すこぶる元気に暴飲、暴食、暴煙の毎日である。