TMMP 酒と肴のエッセイ「酔いの徒然」 文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)

第二十一回 テロとパスポート

ニューヨーク、ロンドン、ましてや東京までも物騒な昨今、イスラエル、特に首都テルアビブの治安は世界一ではあるまいか。
オフィスビル、ショッピングセンター、レストランと、人の集まるいたる所での厳しいチェックにはいつも驚かされる。ビジネスバッグ、ハンドバッグなどの中身は勿論、車の中、トランクまでも調べ上げ、たとえチェックのために大混雑しても、決して文句は言わせない。若いグラマーなガードマンに、「シャローン!」とにっこり笑いかけ、「どうぞ宜しく・・・」とばかり、積極的にトランクを開け、バッグを差し出す。

建国以来、パレスティナや周辺アラブ諸国との血なまぐさい闘争の中で、市民の安全を確保するコンセンサスが行き渡っているのである。ひとたび、繁華街に不審な荷物が放置されたりしていると、警察の対応はスピーディで鮮やか。不審物周辺五十メートルは直ちにロープが張られ、通行止め。遠くから恐る恐る見ていると、小さな月面車のようなかわいいロボットがパトカーから降ろされ、リモートコントロールでチョコチョコと不審物に近ずき、「バ、バーン」と拳銃を発射するのである。「単なる落し物! 異常なし!」と、その手際の良さはたったの五分。

空港での出入国、特に搭乗の際の荷物検査には、いつもながら閉口させられる。「パスポートと搭乗券を拝見。何か、プレゼントをもらいましたか」「はい」と答えると、「では、それを見せてください」「いえ、預けたトランクにいれてありますが」「それでは、あちらに行って、トランクをもう一度開けて下さい」と拳銃を持った兵士の見守る隔離部屋に連れて行かれ、靴も脱がされ、汗まみれの下着の中までチェックされる。「そのコンピュータも開けて、オンしてください」。いやはや、何度イスラエルに来ても、同じことの繰り返し。

イスラエルでも、エルサレム、ガザ、ヨルダン西岸などのパレスティナとの共存地区では、まだ自爆テロが絶えないが、首都テルアビブは最新探知防御システムを隈なく駆使し、将に、イージス都市なのである。
十年ほど前、パレスティナとの和平が進んでいた頃、彼のジェリコを通り、ヨルダン川を渡って陸路ヨルダンのアンマンまで行ったことがあったが、今では夢のまた夢。
当然、パスポートにはヨルダンのビザが大きく印字されている訳だが、一昔前の空港乱射、岡本康三への怨念か、親アラブと疑って、それでいつも特別チェックが厳しいのか・・・。