文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)
第十七回 パオ・ウエスタン
「映画って、本当ーに、いいですよね!」。某映画評論家の決まり文句ではないが、最近、一寸時間が空くと、日比谷、有楽町界隈の和製ブロードウェイに、よくロードショーを見に行く。今年になって、トム・ハンクスの「ターミナル」に始まって、「マイ・ボディ・ガード」、「オーシャンズ12」、「ネバーランド」、「アレキサンダー」、「レオポルド・ブルームへの手紙」、「タッチ・オブ・スパイス」・・・などの洋画から、「北の零年」、「ローレライ」・・・等の話題の邦画も入れて、三月までで既に二十本、週二本のハイペースである。映画を見る個人的姿勢として、必ず一人であること、平日昼間に限ること、開始五分前には着席し、気持ちを集中させること、映像が完全に終了し、会場内の照明が付くまで席を立たず、余韻に浸ることの四つを頑なに守っている。確かに前評判の割にはいまひとつとか、決定的な駄作も多く、途中で熟睡するものもあるが、努めて、製作者、出演者には敬意を表してはいる。
今年四半期のいち押しを挙げるのならば、それは、モンゴル映画「天上草原(英語名Heavenly Grass-land)」に勝るものはあるまい。たまたまインターネット映画サイトで評点「5」と満点を獲得しているのを見つけ、早速勇んで、東京恵比寿の東京都写真美術館ホールに行ったのである。平日昼時、小さな会場はがらがら。スクリーン正面にドーンと座り、いよいよスタートである。
大型画面いっぱいに、果てしなく広がるモンゴルの大草原が映し出され、草原を吹き抜けるような馬頭琴の調べとともに、遠くから馬上勇ましく丘を駆け登ってくる・・・。
心に傷を負い、失語症となった漢族、都会育ちの少年が訪れたのが、深緑広大勇壮な美しいモンゴルの大草原。そこで暮らす素朴な人々の愛情と大地の豊かなエネルギーに癒され、少年は少しずつ回復し、大自然に生きるモンゴル少年として逞しく成長して行く・・・。
活劇あり、愛憎劇あり、兄弟愛あり、男の友情あり。暖かそうなパオで、肉をつまみの酒盛りも美味しそうで、ほろりともさせ、どきどきわくわくもさせてくれる。圧巻は、大草原を駆け抜ける少年達の迫力溢れる草原競馬。
大相撲、朝青龍、白鵬だけではないジンギス汗の末裔のモンゴルパワー、将に恐るべし。彼のジョン・フォードも、びっくり!
いよいよ、本場ウエスタンそしてマカロニ・ウエスタンに代わって、パオ・ウエスタン時代の到来か・・・。