TMMP 酒と肴のエッセイ「酔いの徒然」 文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)

第十三回 俺! 俺! 寸借

まさか、我が身に・・・。それは師走に入った横浜伊勢佐木町、行きつけの七輪焼呑み屋。
「この芋焼酎ロックいけるね。でも、チョッと店の中熱くないかい。俺、背広脱ぐわ」と、後ろの壁の備え付けハンガーに掛け、同僚と元気良く呑んでいたときのこと。
「いらっしゃーい。4名様、ご新規!」と、会社帰りの女性を交えた実直そうなグループが入って来た。
「葉之輔さん、悪リィ。チョッと詰めてくれるかな」「どーぞ、どーぞ。ご繁盛だね、大将!」と、グラスを片手に席を少しずれたのである。4人組が着席し、暫くして「同僚と外で待ち合わせしているので、もう一度戻って来ますから。店の名刺ありますか?」と言って、全員が立ち上がり出て行った。「変な客だね、一人で探してくればいいのにねぇ。まあいいか。牛タンとハラミ、それと芋焼酎お替り!」炭火でジュージュー焼けた肉とオンザロックの芋焼酎が、会話に弾みをつけ、どんどんピッチが上がってくる。
と、その時、大将が受話器を片手に、「葉之輔さん! ケ・・・ケ・・・、警察から電話!」
「こちら伊勢佐木警察ですが、今、不審な4人組に職務質問したら、柄長さんの財布を盗んだことを自白しました。黒い皮財布に現金4万円、キャッシュカード2枚、クレジットカード1枚で間違いありませんね」。「えーッ。チョッと待ってください。・・・・」。ハンガーに吊るした背広のポケットには、財布にクリップでつけた安全用の強い紐が、カッターで切られたままの無残な姿。ヤラレタ・・・。
「ご安心してください。署で保管してあります。もう一度5分後に電話いたしますのでその時ご足労ください。ガチャン」。
「でも、まあ、兎に角、良かったじゃないですか。オーッ。また電話だ」。
「こちらVISAカードですが、盗難カードの本人確認です。住所、生年月日・・・。これで間違いありませんね」。
「はい、間違いありません。いやー。本当にすいません」。
「ところで、確認のため暗証番号を確認したいのですが・・・」。
「何、・・・えーッ。暗証番号! それは??? 俺、俺詐欺も横行しているし・・・。そちらの電話番号とお名前を教えて下さい。こちらから電話しますので」。
一端受話器を置き、言われた番号に電話をすると、VISAカードとは全く関係ない会社。
「すわー。やられた」と、すかさずすべてのカードを止め、現金財布以外、何とかセーフ。
もし、偽警官の一言で安心し、つられてフーッと暗証番号を言ってしまったら・・・すべて即座に引き出され・・・真っ青!
事後、本物の警察官に聞けば、同様な被害が頻発し、先週も500万円も引き出されたとのこと。
窃盗団もさるもの、慌てた時の人間心理を研究し、警官、オペレータ役など、劇団四季並みの演技派を抱えているそうだ。
気の緩む年末年始、諸兄もくれぐれもご用心の程を。