文・画 : 柄長 葉之輔 (えながようのすけ)
第九回 銭湯と夕立
自由が丘、八雲、深沢と、オリンピック駒沢公園周辺には閑静な住宅地が広がっている。木立の茂る起伏の多い道を、マウンテンバイクを駆って、駒沢公園を抜け、銭湯に駆け込むのが休日の日課である。
真夏の太陽がギラギラ照りつける中、Tシャツがぐっしょり、脱水状況寸前までの荒行は、五十過ぎの年齢には少々過酷ではある。
「会長、水風呂、また、入ってないよ」。
この周辺には大学も多く、昔ながらの高い煙突のある銭湯がいくつかあったが、この10年で廃業、洒落たマンションなどに代わってしまった。我が長嶋監督、野村監督・サッチー夫人ご愛用サウナも近くにあるが、値段も高く、今だ不動産屋の溜まり場のようになっていて、もっぱら、この庶民派銭湯を愛用している。小さなサウナも付いていて、バスタオルこみで600円。会長、会長とみんなに呼ばれているのは、現職の町内会長で、近所の世話役、情報通であり、ひょうきんな宴会部長でもある。
3時半きっかりの一番風呂には、焼き鳥屋の昭ちゃん、寿司屋のカッちゃん、倶梨伽羅紋々老親分、ご隠居と、顔なじみが決まって入ってくる。
「会長、血の気をなくしたボーっとした顔で、ふらふらしていたから、また二日酔いなんだろう。」
「この前なんか、サウナのスイッチが入ってねえんでやんの。まいったよ。」
マウンテンバイクでぐっしょりと汗まみれの体を、サウナでまたまた汗を搾り出すこと3回。水風呂、ジャグジーでさっぱりと仕上げして番台へ。
「うへー。外、真っ暗になってきたね。こりゃ、夕立だ。今日はビール無し。それじゃ、どうも」。
マウンテンバイクのペダルを目いっぱい踏んで走っているうちに、「ドヒャー、ドバー」と、大粒の雨が密度濃く体中にぶち当たる。みるみるうちに、ポケットの携帯電話も、お札も、下着のパンツもぐっしょり。
夕立の雨は、銭湯の生ぬるい水風呂より冷たく、サウナで火照った体は、寒気さえ感じる。